お客様各位
南半球出張報告
2019年 7 月 22 日
株式会社中村農園
中村慶吾
いつもお世話になっております。
7月前半にチリ・ニュージーランドに出張し、日本に輸出される百合球根の生産地を調査してまいりましたので、ご報告申し上げます。
① 2019年産の気候について
チリとニュージーランドは、遠く離れていますが、今季の気候パターンは似ています。
A:春から初夏
日本では、遅い梅雨の影響で初夏の気温が低く推移しておりますが、2019年のチリ・ニュージーランドも似ており、春から初夏に当たる9月~1月中旬までは、雨が多く、気温が低く推移しました。
CHでは、南方の生産地で10月11月に遅霜が発生し、一部では雹の被害もでました。一方、涼しく雨も多かったため、総じて太く長い根が多く、写真(販売球)は、私が前回訪問した2月初めの調査で最長の根だった球根です。
NZでは、霜の影響はなく、生育は摘蕾時期が遅れた程度でした。
19年産は、収穫時期(6-8月)に植付ける「冬植え」が多く、そちらはスタートが早い分、遅れもなく順調な生育をしていました。
B:真夏
涼しかった春が終わると、1月下旬から一変して高温になり、両国とも雨が少なく日照は豊富で、生産者は懸命に潅水を続けました。
写真は、ピボット方式という円形移動する潅水設備で、CHのロサンヘレ地区の様子。
CHでは、アンデス山脈からのフェーン現象により、高温で乾いた風が数日続き、首都サンチアゴより南側の多くの都市で観測史上最高気温になったそうです。球根生産地でも、最高気温が37℃以上になり、夜間も27~30℃の日がありました。NZでも、夏の高温時はラカイアで36℃、夜温も20℃という日があり、NZ特有の紫外線が強い日差しで、急速に肥大を取り戻しました。
C:秋
両国とも、秋遅くまで暖かい気候が続きました。
CHでは、4-5月に深い霜はなく、地上部は緑を保ったまま生育が長く続きました。生産者によっては、過去10年以上の経験で、最も遅くまで防虫散布を行ったと言います。NZでは、3月~5月まで暖かく、全般に雨が少なく乾燥ぎみでした。生育期間中に肥大が確保できた場合、地上部を短く刈り込むモーイングを行いますが、平年よりやや遅い4月頃に行った圃場が多く、小さい種球などでは実施されませんでした。
今回の両国訪問時(収穫期)に、圃場で行った生育チェックでは、CH産は平年並み~やや小さめ、NZ産は平年並み~やや大きめ、に肥大している結果でした。
D:収穫期
CHでは、時折まとまった雨があり、断続的に小雨も降っていますが、昨年に比べて生産面積が減ったところが多く、収穫の進捗状況は平年並みです。NZは、秋の乾燥と暖かさのまま冬に入っており、殆ど雨がなく、収穫は進んでいます。但し、倉庫での選別作業の処理量は限度があるため、選別終了は平年より1週間早い程度となりそうです。
選別が終わった品種ごとに収穫結果が知らされますが、サイズごとの過不足は、生産見込と収穫結果のずれに加えて、輸出会社の販売状況も影響します。弊社としましては、お客様に調整が必要となった場合、速やかにご報告し、代品のご案内を差し上げます。
② 芽形成調査
チリ・ニュージーランドの各生産者のご協力により、今年も多くのロット調査と、その中の芽形成を確認・計測することができました。芽形成状態を見ることで、その年の球根の力を占う事ができますが、品種、栽培方法、施肥、気候、収穫時期などによって、芽形成度合いは異なります。
下表は、全般の傾向を見るため、調査データの平均値を、前年と比較したものです。
前年比(%) | 芽長 | 芽幅 |
CH | 102.3% | 111.9% |
NZ | 97.1% | 93.4% |
次に、両国の調査平均値に近い芽の写真をご紹介致します。
写真左(背景白):チリ産
今年の芽は芽幅(最も膨らんだ部分)が茎幅(最も細い部分)に対して広く、くびれのある形状をしています。18年CH産に比べ芽幅が太いのは、秋の気候が長かった影響が考えられます。
写真右(背景黒):ニュージーランド産
芽幅があまり張っておらず、寸胴な形状をしています。芽の太さは、リン付が少なめだった17年NZ産と、比較的多かった18年産の間くらいです。気候が良く、球根肥大が終盤まで進んだため、相対的に落ち着いた芽だと思います。
③ チリ産について
球根の品質向上:4~5年前からチリの生産者は、オランダからの種球の導入を極力控え、バイラス感染ロットを捨て、ティシューからの母球生産に切り替えました。大規模な生産者では、オランダの同規模の生産者に比べ、1桁違う球数のティシューに投資をしており、他国の球根生産者には信じがたいものだと思います。各生産者が相当にコストをかけ、全体でそろって品質浄化が取組めたことは本当に素晴らしいことです。
更に2020年産に向け、新しい(より厳格な)品質検査方法の導入を、生産者団体とチリ政府とで進めており、輸出先の国にとっても信頼のおけるものになると言われています。
生産面積の減少と需給バランス: 球根の世界は、世の中の経済より数年早いと言われていますが、2017年後半から発生したアジアショックの影響は大きく、チリ全体で生産面積が大幅に減少しました。中には売上の回収で被害に遭い、自社の力では経営が継続できなくなる会社も出てしまい、改めて、正常な取引と約束を守ることが当たり前の日本は評価されています。以前より日本に輸入されるチリ産の球数が減り、関わる会社は減りましたが、より安定と信頼を築ける要素が整ったと感じています。
ここ数年は、旧正月の日付が2018年2月16日から、2019年2月5日、2020年1月25日と早まったことや、新しいロットがティシューから販売球になるまでには5年程度かかるため、全体として生産面積の減少が続きましたが、今後は、品質と共に世界的な需要も回復し、生産と販売のバランスが取れればと思います。
④ ニュージーランドについて
一般的なオランダでの球根生産に比べ、定植密度が高いのに、肥大も一回り大きくなる恵まれた気候に加え、ここ数年で冬植えの面積が更に増え、今年は昨年に引き続きとても良い収穫結果となっています。バンザンテンNZ社では、2年栽培の1年目の圃場も販売球サイズになったものが多く今年収穫できたため、来年2020年産の2年栽培球は、僅かとなる見込みです。
今年は収穫期に雨が殆ど降っておらず、収穫スピードが速いので、作業の合間に冬植えが進み、来年に向けての好循環が既に始まっています。写真は、植付けが済んだ種球ケ―スです(ビンと呼びます)。
日本の冬~春の切花生産において、ニュージーランドはとても重要な生産国であり、私共に協力して下さる球根生産会社との関係も長く良好です。今年は、バッカー(オランダ)社の次世代の若者が弊社を研修先に選び、展示会にも参加してくれました。
バンザンテン社も自社開発品種のプロモーションにおいて、新品種を早く南半球で生産するメリットに理解を示してくれており、球根生産が始まっています。
弊社は、日本での南半球産百合球根を扱う重要な役割を担っており、今後も毎年の訪問と交流を続けながら、チリ・ニュージーランドの球根生産会社及びそこで働く人たちと、国内の切花生産者の皆様を繋ぎ、建設的な関係作りを目指します。
今後とも、私たちの活動にご支援をよろしくお願いいたします。
以上